してきなにっき

私的でたまに詩的です。素敵になりたいです。

しゃぶしゃぶと冷戦

八畳くらいのリビングに大きなテーブルが占拠し、
その上に大きな鍋がひとつ、昆布を揺らしながら静かに旨味を溶かしている。
居なれた祖母の家、大量の肉、母、妹、祖母。
今日はどうやらしゃぶしゃぶらしい。

鍋の前で妹と久々に口喧嘩をする。
彼女は常に上から目線で(目線が高いのは、学が高いからだろうか)
初めは一方的に詰ってきた、気がする。
普段は大人しい僕も、思わず反論する。
そんな時は母はいつも曖昧に笑う。
僕が疲れて、トイレにたったときまで、
妹の猛攻は続く、それに言い返す。
リビングに戻り、床に座る。
野菜を持ってきた心配顔の祖母に、
母が柔らかに戦況を報告する。
「にいちゃんがまた文句を言ったのよ~」

僕は物心ついた頃、妹と母に
「にいちゃん」とよんでくれと言ったらしい。
思えば初めての責任感の発露かもしれない。

妹に兄らしくしたことなんてない気がするけれど。
それどころか彼女が僕を反面教師にして、
優秀な大学へ入ったりしている。
そんなこともあって、僕に対して彼女は、
上から目線なのかもしれれない。

しかし今回は僕から宣戦布告したわけではなく、
彼女からしかけてきたのだ。真珠湾攻撃のように。

中立国である母から背後から打たれた僕は、
もう居てもたっても居られなくなり、
「なんやねん、もうええわ!」と、
全力で謎の関西弁を駆使し、怒号を撃ち放った。
そして主戦場である鍋の前から撤退し、
強い足取りで階段を上り、寝室に籠城する。
家族三人で、布団で川の字で雑魚寝をする寝室だ。

珍しく非の打ち所がないくらい僕が被害者だった。
煙草を付けながら自宅から持ってきた、
改造したWiiで64のゲームをする。
この辺でふとおかしいなと思う。

今住んでいるのは東京のはずだ。
僕は改造したWiiなんて持っては居ない。
それでもイライラしているので矛盾を無視して
星のカービィ64をやる。ミニゲームだ。

従兄弟が部屋に入ってくる。一緒にゲームをする。どうやら叔父一家も居るらしい。
「あれ、しゃぶしゃぶできてるんじゃないの?」
と買い物の荷物をまとめた叔父が言う。
「下行くぞ」と仲間に入れるような優しさで続ける
しぶしぶ叔父と従兄弟と下へ行く。冷戦の覚悟。

座ると同時に妹が号泣している。謎だ。
でも構わない。俺はしゃぶしゃぶを食うのだ。
ひたすら無言で箸を進める。
肉をとってはしゃぶしゃぶする。
しゃぶしゃぶしては祖母特製のつゆにつけ口へ運ぶ
旨い。有無を言わさずに旨い。機嫌が悪くとも。
妹が泣きながら謝ってくる。肩を揺すってくる。
「兄ちゃんごめん~」と言葉にならない言葉で。
でも僕はしゃぶしゃぶをしに来たのだ。
停戦協定をしに来たんじゃない。
無視して肉を食べ続けた。
満腹になったところで夢から覚めた。
よだれを滴ながら目が覚めた。最悪だ。

あの夢はなんだったのか、どういう真相心理なのか
よくわからない。何を示唆しているんだろうか。
あそこは旭川で、ここは浅草だ。

お腹なんて一ミリも減っていなかった。
むしろ胃が荒れてるのか食欲がない。

でもなぜか無性にしゃぶしゃぶが食べたい。
一家で食卓を囲みたい。

妙に鮮明な夢で気になったので、
忘れないうちにここに投下しておく。
自分が何を求めているのかわかるかもしれない。